真白な君
 (お侍 拍手お礼の二)
 


来るべき野伏せりの襲撃に備え、
神無村では、村を上げての様々な対抗措置が取られつつあり。
途轍もなく巨大な武器に、頑健そうな岩砦。
切り立った断崖のところどころには堡を設け、村の武装を隙なく固め。
それと同時進行で、戦い慣れた野伏せり相手に、弓を引く習練を徹底してもおり。
そんな作業も鍛練も、突貫のそれにしてはなかなか順調に進んでいた…とある日のこと。

「皆様、お疲れ様です。」

小さな村のことだけに、軍議というほど仰々しいものは設けないが、
それでも各所現場の進行状況の報告は必要で。
遅れているところへ、村人たちの班の割り振りを再編・調整するべく、
情報統括の本部とされていたのが、侍たちへと提供されてた大きめの農家。
ちょうど食事時とあって、炊き出し担当の女性たちが手分けして、
村中の作業場へ、食事の包み、握り飯を届けており。
本部とされた詰め所にも、水分りの巫女姉妹が食事を抱えてのご入来。
休憩交替もほとんどないまま、お忙しくなさっておられるお侍の皆様へは、
「精をつけていただこうと思って。」
近隣の村で飼われている、鷄の玉子がまとめて手に入りましたのでと、
竹のザルにきれいに並べて運ばれたは、
真っ白なお顔がお揃いで、ずらずら並んだ茹でた玉子。
「これは有り難い。」
「あ、お塩はこちらに。」
現場の進捗のほどを報告にと運んでいたヘイハチ殿や、
そろそろ哨戒へ人員を割いてもよろしいかと、との、
やはり報告をしに来ていたシチロージ殿が、
ひょいと手を伸ばすのを…戸口に立って きょとりと見やっていたのが、
広場での習練の監督の合間、水を飲みにと戻って来ていた、
双刀を背負った、金髪紅衣の若いお侍。
そんなに大人数で立ったり座ったりと込み合っていた訳でもないのだが、
人の多さに戸惑っておられるのかと思ったらしきコマチ坊、
「キュウゾウ様もどうぞです。」
にっこり笑って、小さな手に包むようにして持って行って差し上げた茹で玉子。
「…忝ない。」
ありがとうねと受け取りはしたものの、じっと見つめるばかりでいる彼で。
「どしたですか? 玉子、お嫌いですか?」
おマセさんにもそんな訊きようをしたコマチの言葉に、
やっとその物体の正体が判ったらしきキュウゾウが…何をしでかしたかと言えば。

「わあっ! ダメですよう!」

いい大人が殻ごとガブリと齧るだなんて、一体誰が予想しただろか。
口当たりがいい筈のない食感へ、見る見ると眉を寄せてしまった彼を前に、
「…っ、早く吐き出しなさいっ!」
「キララ殿、水をっ!」
「は、はいっ!」
「飲んじゃダメですっ!」
長老の家から戻って来たったカンベエ様が、
野伏せりの先駆け斥候でも現れたのかと思ったほどの大騒ぎの末、
細かい殻まで全部キチンとすすがせてのあらためて、
「いいですか? キュウゾウ殿。
 殻は剥いて、こうやってきれいに取り除いてから、中身を食べるんですよ?」
「…。」
つるんと剥いたの手渡して、
こっくりと頷いたのを確認し、何とか安堵の吐息をつく皆様だったりし。

「相変わらず、意外なところが抜け落ちてる御仁ですねぇ。」

刀を握らせれば斬れないものはなし、身も軽くて空へだって高々と跳べてしまえる、
戦闘においてはそりゃあ抜きん出ている方だのにと、シチロージが苦笑をし、
「そういやこないだも、
 握り飯に入ってた梅干しを見て“飯の種か?”なんて訊かれましたし。」
と、これはヘイハチがこっそりすっぱ抜く。
「でもでも昨日は、オカラちゃんとコマチにって、
 すぱすぱすぱ…って、リンゴをウサギさんに切ってくれましたよ?」
それは嬉しそうにコマチがはしゃぎ、
「…ウサギさん。」
何とも可愛らしいものが出て来て言葉を無くしたヘイさんの傍ら、
「ちょっと待て。それってあの刀で、じゃあなかろうな。」
別な心配をしたモモタロさんへは、
キララが苦笑をしながら“ちゃんと包丁を使ってです”と言葉を足したが。
「それにしたって…。」
器用なんだか不器用なんだか。
口々に困った方だと言いながら、それでもその口元へ揃って苦笑が浮かぶのは。
寡黙で無愛想で、人斬りにしか関心がなく、
幽鬼みたいなと思われていたそんな彼が、
子供以上に何にも知らないのだというのが判るにつけて、
どうしてだろうか、心のどこかで不思議と安堵を誘うから。

「まったくもう。
 キクチヨのおっちゃまと変わらないですね、キュウゾウ様は。」

鹿爪らしいお顔になっての、コマチのお姉さんぶった物言いへ、
皆して必死で笑いを堪えた垣根の向こうでは。
その、お顔は綺麗だが困ったところの多かりしお兄さんが、
口元へと取り残された米粒を、
畏れ多くも首魁殿に、手づから そぉっと摘まみ取ってもらっていたりして。


  ――― こんな調子で野伏せりに、果たして勝てる彼らなんでしょか?
(笑)




 *思い切り宇宙人なキュウゾウ殿を書いてみたくなりましたが、
  想像力の乏しい者にはこれが限度のようでございます。(うう…。)
(苦笑)

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